メイキング

「The Seat」は映画ではない。「映像」が「物語」を紡ごうとする「何か」である。

「The Seat」の監督の一人である上田です。

この短編映画は、私の19年来の知人であり演劇作家である中村房江さんと私の共同監督によって生み出されました。

中村さんは役者さん達の演技指導や全体的な世界観のコントロールについて担当され、私は映像面での監督を行わせて頂きました。

最初、中村さんから頂いた脚本は次のようなものでした。

(冒頭のシーンから一部抜粋します)

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○教室(五人の登場)

教室に椅子を並べ終わるフナキ。

フナキの表情。「・・・よし。」

(セリフは無くても良い)

フナキの背中越しに内向きに円形に並べられた椅子の全体。

そこには誰もいない。

カメラが円形の椅子を中心に回転。

フナキの背中にカメラが隠れて椅子が見えなくなる。カメラが移動して再び椅子が現れたとき、

そこには椅子に座った五人がいる。

互い見つめ合っている。

(もしくはお茶を飲みながら談笑している。)

(並び リン、エナミ、モエコ、オガワ、コイヅカ)

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「教室」はどこにあるのか、「フナキ」とは何者なのか、そして突然現れた5人は?といった説明は皆無です。

最後までこれらは説明されることはありません。

セリフもほぼなく、あったとしても嗚咽や声にならない口の動きなどです。

結果、「The Seat」は普通の映画にみられるような「説明的」なシーンを一切排した、かなり実験的な作品になりました。

ロケ地について

4月中旬、映画作りは舞台にふさわしい教室のある「廃校」探しからスタートしました。

いくつか探していく中で、広島県北の山奥で廃校をいくつか見つけたのですが、アクセスの悪さと管理者が不明であることから断念。

4月末頃に、Facebook上で「雰囲気の良い廃校どなたか知りませんか?」と問いかけをしたところ、私(上田)が東京でお世話になったある方から「ネットでこんな場所を見つけたよ」と教えてくださったのが、呉市安浦町の赤向坂というところにある小学校の廃校でした。

こちらは今でも集会所として利用されており、管理をされている自治会長さんとスムーズに連絡がとれて、無事、撮影の許可を頂くことができました。

木造の長屋造りの素敵な校舎ですが、釘を一切使わないにもかかわらず、瓦の重みで屋根が沈むことなく、ほぼ当時の原型を留めていることから、おそらく宮大工によって作られたのではないかというお話でした。

もともとは呉市が管理している校舎だったのを、地元の自治会が管理を引き継ぎ、今では土曜の朝市など、地域の住民の方の憩いの場所として使われています。

撮影の許可を頂きにお伺いしたときも、自治会のみなさん(ほとんどが地域のご老人です)で賑わっていました。みなさんほとんどこの小学校の卒業生ということで、ここで生まれ育ち、暮らしを続けていくその姿に、人の暮らしの本来あるべき姿を垣間見みる思いでした。

毎週土曜は朝市!

撮影に使用した安浦町の旧野呂北小学校全景。地域のコミュニケーションスペースになっています。

撮影当日について

ロケ地が決まり、撮影は2019年6月2日に行うことになりました。

私は撮影までにあれこれとカット割りや撮影方法をシミュレーションしました。

そして、私が採用した究極の撮影方法、それは

「私ならこの映画をどう観たいか?」

という、私の直感に従った撮影をその場の判断で行うことでした。

つまり、最初のシーンから最後まで、こんなカットが続いたらカッコいいなぁという私好みのカットを、その場の状況を見て構図を決めて撮影するという行き当たりばったりなものでした。

従って、撮影する順番も脚本の順番通りに行う「順撮り」です。

絵コンテらしきものも用意していましたが、結局は現場での思い付きで

「あ、こっちから撮ったらカッコいい」

「あ、このカットも良い」

「上田さん、このカット撮っといた方が良くない(by 中村さん)」

とカット数はみるみる増えていきました。

おかげで当初は「半日で終わるだろう」という予定を大幅にオーバーし、ロケ場所に採用した小学校に朝8時に入り、撤収が午後8時ごろ。

そのため、物語が進むにつれてどんどんシーンの明るさが暗くなっていくのが見所です。。。

出来上がったラッシュを、中村さんをはじめ、私の周りの映画好きな何人かの方にも観て頂きましたが、概ね好感触を得ることができました。

(中村さんからは結構なダメ出しを頂きました。さすが完全主義者の中村さんです)

私も中村さんも映画造りに関しては全く初めての経験で、果たしてこれが映画として成立するのか不安な部分もあったのですが、完成した作品を観て改めて、

「私たちのアプローチは間違っていなかった」

という自信を抱いております。

撮影機材について

撮影にはSONYのフルサイズミラーレスカメラを使用し、三脚を使わずにスタビライザーを装着して行いました。

また、望遠・広角別にカメラとスタビライザーを3セット用意しました。これによりスピーディーな撮影が行えました。

また一部のシーンはCANONのC100と三脚を使用し、オープニングとエンディングで使う象徴的なショットのためにドローンも飛ばしています。

DJI Mavic2 Pro

撮影風景

右から、Sony alpha7 III + DJI Ronin-S、Sony alpha7 II + DJI Ronin-S、Sony RX100 M5 +MOZA Aircross、DJI Osmo Pocket

一応絵コンテです…。

控室の様子

休憩中?

撮影中

立ち位置と構図の確認

スタビライザーのおかげでドリー撮影が簡単にできました。

撮影前に大掃除

撮影前に大掃除

撮影が終わると見事な夕焼け…

夕焼けを見て感動中…。